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03/株式会社 S PLUS ONE 坂野 由美子「デザイナー&クリエイターズネットワーク」ご登壇者の紹介
2025年02月05日
デザイナー&クリエイターズネットワーク登壇者のご紹介です。
今回は株式会社 S PLUS ONEの坂野 由美子さんです。
(登壇日:2025年2月5日)

坂野 由美子
・建築家
1.私たちの地域づくり
建築設計事務所を営んでおります、坂野と申します。
「暮らしが⾵⼟を作る」という企業理念で建築設計事務所を営んでおります。” S PLUS ONE” の名前の由来は、「サステナブル(Sustainable)な, 地域のため(Plus)になること, デザインを通じて, 地域の人々があつまる場(One)」という思いを込めて名付けました。設⽴は2009年で、今年で16年⽬になります。
具体的に⾵⼟を⽣かした持続可能な地域づくりとは、⼭梨の⾃然環境と⼈間の⽇々の暮らしの営みから⽣まれた地場産業(林業、農業、ワイン、⽇本酒、宝⽯、甲州印伝、印鑑、和紙、織物など)を、建築、家具、プロダクト、デザインという形で活⽤し、様々なものをデザインしています。
「暮らしが⾵⼟を作る」とは、持続可能な地域が楽しくなる空間を作る、つまり⾃然環境と⼈間の⽇々の営みが持続する場所を作ることをモットーに、⾵⼟に寄り添った持続可能な地域を作る会社を⽬指しています。⾵⼟とは、⼈の⽣活や⽂化に深く働きかけるものだと考えています。拠点は⼈⼝3万⼈ほどの⼭梨県甲州市勝沼町で、農業と観光を中⼼とした過疎化が著しいエリアです。

この「98WINEs」というワイナリーは、「テロワール(⾵⼟・⼟地の個性)地域に開かれたワイナリー」というコンセプトで設計しました。甲州古⺠家が建ち並ぶエリアに位置し、⼭々に囲まれ、強⾵が吹かないため、切妻屋根を採⽤しました。⼟壌は、古⺠家の⼟壁や⽡を再利⽤しました。ワインの仕込みでは、重⼒に逆らわない「グラビティフロー」という⼿法があるため、建物の配置もその⼯程に合わせて設計しています。
ただ建物を造るだけでなく、建設過程から地域を巻き込みました。地域唯⼀の⼩学校の全校⽣徒28⼈を招いて上棟式を⾏い、最後には餅まきもしました。

完成後も、醸造体験として毎年ぶどうを⾜で踏んでワイン造りを楽しむイベントを継続的に⾏っています。
地域のおばあちゃんがほうとうを振る舞うなど、地域との交流も盛んです。

その後、98WINEsから少し登ったところにある既存建物をブルワリーに改修する案件がありました。
これは「森の中のブルワリー」で、宿泊も可能です。リノベーションにより、ビールを飲みながら泊まれる空間にしました。
さらに、ペットと泊まれる宿が欲しいという要望があり、⼀棟貸しの⽝と泊まれる宿も作りました。
コロナ前から⾏っているツアーとして、建築、不動産、観光の3つの業態とコラボし、⼭梨県の空き家率が全国1位であるという課題を解決するため、単なる古⺠家巡りではなく、⼭梨の⾯⽩い観光スポットとエリア内の古⺠家ストックを案内するツアーを企画しています。様々なエリアに絞って複数回実施しています。

家具デザインでは、⼭梨県が70%森林に囲まれ林業が盛んなため、林業と持続可能な森づくりをテーマに活動しています。甲州市からの依頼で、甲州市の⼭にある材料を使って椅⼦をデザインしたり、スーパーの(株)オギノが所有する森から出た端材を使って家具を作ったり、リサイクルしたワイン樽を利⽤してベンチを作ったりもしています。
プロダクトデザインでは、⽇本酒の枡を県産材で作ったり、ワインラックを⼭梨県産材のミズナラで作ったりしています。富士吉田の織物の傘を置くための什器を⼭梨県産の杉で作ったこともあります。
2.FUDO・風土

このような活動を続ける中で、さらにできることはないかと考え、おととし⼭梨の⾵⼟を体感する施設「FUDO」をオープンしました。場所はぶどう畑に囲まれた⼭梨県甲州市勝沼町で、宿とレンタルキッチンスペースの⼩さな⾐⾷住複合施設です。⼀棟貸しの宿「庵」と、中古の厨房機器と家具を揃えたレンタルキッチンスペースで「火を囲む」という意味で「炉」があります。

「FUDO」のロゴは甲州市在住の染⾊家・古屋絵菜さんにデザインしてもらい、家具も⼭梨の⽊⼯作家さんの作品や深澤直⼈さんがデザインした椅⼦を置いています。富⼠吉⽥の織物を使った家具のプロデュースも⾏っています。甲州市在住の和紙アーティスト・伊藤咲穂さんに作ってもらった「錆び和紙」(ぶどうの枝を剪定した炭を混ぜた和紙)を内装の壁に貼っています。

「FUDO」は単なる宿泊施設ではなく、⼭梨の地場産業を案内し、体感してもらうことをコンセプトにしています。市川三郷町の和紙⼯房「⼤直」を案内したり、富士吉田の槙田商店さんの傘を宿泊者に無料でレンタルしたりしています。⼭梨には⾯⽩い布団屋さんもあり、「sinso」の布団をFUDOでは使っています。ぶどう畑に囲まれた勝沼で、⼭梨の⾵⼟を体感できる⼩さな⾐⾷住複合施設として「暮らすように泊まる」をコンセプトにしています。
3.山梨の場所を伝える
日々、地域づくりに携わりながら常に思っていることは、⼭梨にはすでに⾯⽩いコンテンツがたくさんあるということです。ワインツーリズム、ワインフェス、ハタフェス、発酵マルシェ、ホクトサケグルグル、ジュエリーツーリズム、ニラサキオープンファクトリーなどがあり、新しいものを頑張って作る必要はないと感じています。
デザインセンターさんに期待したいのは、すでに存在するコンテンツの情報を収集し、紹介し、我々ではできない⽴場でまとめてもらうことです。例えば、私が作ったようなマップも、ワインツーリズムさんも甲州市も作っていますが、それらをお互いに借りたり利⽤したりすることができないのが現状です。県がそのような⽴ち位置に⽴って、誰でもマップを借りたり利⽤したりできるような仕組みがあれば良いと常に思っています。
デザインがなくても何不自由なく暮らせる山梨で、デザインを取り入れる事で、山梨の地域がより豊かになる、そんな取り組みを山梨デザインセンターに期待したいと思います。