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07/Yutaka Create 野村由 多加「デザイナー&クリエイターズネットワーク」ご登壇者の紹介
2025年04月24日
デザイナー&クリエイターズネットワーク登壇者のご紹介です。
今回はYutaka Createの野村 由多加さんです。
(登壇日:2025年4月24日)

野村 由多加
・デザイン・コンサルタント
・クリエイティブディレクター
1.地域材の課題
北杜市でデザイン事務所を開設しました、野村と申します。
もともと東京で、家具メーカーに長年勤めていまして、主に地域材を使った家具づくりと空間づくりを13年ほど行っていました。また、フェアウッド・パートナーズというグループで、国際環境NGO等と一緒に国内外の森林保全や違法伐採木材の抑止の啓発活動も行いました。
現在は、特に地域材を使う際に課題になることを皆さんと共有しながら、プロダクトや地域づくりができると良いなと考えています。
いまでは、都心でも、木を使った店舗や木質化された茶色いオフィスが増えてきましたが、企業と共に、地域の資源である木を使って、地域をどうやって活性化するか、一助となるか、課題に取り組んでいました。
例えば、スターバックスさんとは、「JIMOTOテーブルプロジェクト」を立ち上げて、地域材を使い、家具・テーブルを地元の職人の手でつくり、カフェの中に据えつけることを多店舗で展開しました。
日本は、森林が豊富で林業地が多くあり、木の伐採・製造・加工が出来る職人や木工家などが僅かながらも全国にいる稀な国ですが、それらを継承していくには、業界をはじめ、町や村の過疎化など様々な課題が重なり、困難な状況です。
2.山梨WOODROCK
移住して、昨年の6月に「山梨WOODROCK(ウッドロック)」というチームを県内の木工家たちと旗揚げしました。(現在9名)持続可能な社会づくりなど、時代としても地域材をより使っていこうという意識が高まってきている中で、木工家たちと一緒にチームをつくって、地域の木に関する課題を解決していこう、木工文化を継承しようということで立ち上がりました。
メンバーは、個人の作家さんなので、1人1人、個性があって、それをどうやって事業の中で生かしていくのかを、半年ぐらい時間をかけて話し合って、ビジョンやミッションをつくり上げていきました。いつか山梨に木工文化を根付かせることを目標にしながら、どんなことをしていくかを、毎月、話し合っています。

具体的なWOODROCKの活動としては、例えば、昔、自分の子どものために小さな椅子をつくったものを、持ち寄って、発表し合いました。
10年以上たった小椅子は、作家の個性あふれる椅子の造形バリエーションがあって、子どもへの愛情あふれるデザインがそこにありました。
そういうことをお互い「理解し合う時間」をとても大切にしています。
3.広葉樹の可能性と未来


またここ4年ほど、北杜市の(有)天女山さんという林業会社が家具用材となる広葉樹の丸太を一堂に並べ販売する、「丸太市」を開催してくれています。林業に詳しい方はご存じかと思いますが、林業は主に針葉樹を育てて伐って売るため、広葉樹の丸太市はなかなかないのですが、針葉樹林業の中でポツポツ出てくる広葉樹をなんとか活用できないかということで1年かけて貯めて丸太市に出してくれます。
択抜・少量で効率化が図りづらい、運び出して製材・乾燥、板材するまでに手間暇がかかる、需要を見込み辛いなどで、広葉樹が流通しにくい現状が全国各地にあるので、それに対して、広葉樹の丸太市を開催するだけでも大変なことです。そういうことに対して、林業家の方たちの理解や具体的な行動が高まっています。
山梨県内にも拠点のある企業でも、例えば、飲料メーカーのコカ・コーラさん。白州町のミネラルウォーター「いろはす」、水を大事にしているので当然、森も大切にしなくてはいけないので、森を知るワークショップなどを開催しています。サントリーさんもそうですよね。
或いは、庭木です。山梨は別荘地が多いこともあり、特殊伐採が多いです。木が伸びて道路に出たから伐ってほしいなど(支障木等を伐る)となったときに、それをただ伐って燃やす、薪にするのではなく、特に大径木は板材にして救うことができます。それら広葉樹を救うという意味で、ウッドロックでは「レスキューウッド活動」も始めています。

木工ワークショップでつくる家具の試作づくりを、仲間たちと一緒に手を動かしながら検討し、提供できるサービスの向上のための活動や、富士川町では町有林の伐採見学会を森林組合や地元の団体が主催し、一般の方・子どもたちを森に連れていき、森の大切さはもちろん、立木から板材にするまでの素材生産の大変さを伝えています。そこに私たちは、木を加工してモノや作品にする喜びや、愛着を持ってモノを使う大切さを加えて伝えていきたいと活動しています。
或いは、木工家同士の知恵の共有をすることで木工技術の研鑽を大切にする活動もしています。
例えば、よく皆さんが目にする、薄く削る大工の鉋(かんな)は針葉樹の鉋の技術なのですが、家具は座面やアームなど曲面を削ったり、形を一気に出したい削り方をすることがあり、家具の鉋は少し違います。つまり、広葉樹の鉋と家具の鉋とはまったく違う技術研鑽が必要なのです。
私は家具メーカーに長年勤めていたのですが、家具メーカーは木工家ならではの蓄積されてきた文化・歴史もあまり知られないことに気づきました。木工家の家具はオリジナル創作家具と、地域の工務店さんの注文等で請ける注文家具があります。
「自然と共にある暮らし」というものがベースにあり、これからの時代とフィットし、リードする生き方なのではないかと考えています。今後、山梨にも、そういう方々を受け入れる場所としてどんどん発展していく可能性があると思います。
なので、環境を整えることを大事にしたいと思います。 広葉樹の素材や資源はもちろん、地域内に技術や文化を蓄えられる環境を整えていく必要があると思っています。

そこで、いま森林組合と連携して、広葉樹の利活用のための倉庫「ウッドストック」を構想し、準備を徐々に進めています。広葉樹は、集材・運搬・製材・乾燥にとても手間暇がかかり、板材にして2年以上、風通しの良い場所に寝かせなくてはいけません。それ以外にも広葉樹ならではの多くの課題に対し、周りの方に協力を仰ぎながら向き合いたいと思っています。
最後になりますが、こういった1人ではできないことを、それぞれの個性がある中で、「一緒にこの山梨という地で、共に生きるための運動体になる」、その運動体のデザインに挑戦していくことが、WOODROCKの存在意義ではないかと思っています。
周りの方々と、いろんな協力者と、信頼できる関係性を一歩一歩、構築することで、繋がりながら一緒にできたらなと思っています。